この度、日本法弁護士として初めて英国のインスティチュート・オブ・アート・アンド・ロー(Institute of Art and Law、以下「IAL」と省略)が提供するArt Law Diplomaコースを修了しましたので、概要をご紹介します。IAL は、1995年設立の歴史ある教育機関で、「Art Antiquity and Law」という法律雑誌の発行やセミナー、コースを提供してます。
ロンドン大学クイーン・メアリー校が2017年から提供しているLLM Art, Business and LawプログラムもIALとのパートナーシップにより提供されています。
コースの位置付け
Art Law Diplomaコースは、法律家向けのコースとなっており、IALの提供するなかで最も専門的な内容です。
修了生
このコースの修了生には以下のような方々がおります。
-Becky Shaw, Associate, Boodle Hatfield LLP, UK
-Vivian Haines, Principal, Stonehage Fleming Law Limited, UK
-Irina Olevska, Cobalt, Latvia
-Tracy Sweeny, Sweeny Legal IP, Australia
アプリケーション
コースを開始するためにはまずアプリケーションを提出してIALからオファーをもらう必要があります。正式な学位ではないものの、結構厳しいですね。アプリケーションの期限は設けられておらず、いつでもアプライすることが可能です。
アプリケーションの条件として、英国のLLB(法学部卒業)又はコモンローの国におけるこれと同等の学位が必要となります。日本を含め、コモンローの国以外の学位しかないときには、基礎コースであるPreparetory Certificate in Art Lawコースを先行して修了するか、十分なコモンローの知識があることを証明することが求められます。
私の場合は、ニューヨーク州弁護士資格、米国ロースクールのLLM(法学修士)がありましたので、基礎コースの受講は必要なく、Art Law Diplomaコースのオファーをいただけました。
アプリケーションに記載が必要な情報としては、学歴、語学能力(IELTS、TOEFL)、職歴、出願理由、推薦者2名が求められています。
私のときは、アプリケーションの提出からオファーが出るまで、約1か月弱でした。
費用
£2,300 + VAT (合計£2,760)。支払いはオンラインで行うことができます。
コース詳細
(1)10のモジュールに分かれたコースワークを終えた後に、(2)3題のエッセイ形式の課題(各3,000 words)を提出することでコース修了となります。
(1)コースワーク
(i) 各モジュールでリーディング資料が配布されそれを読んだ上で、(ii) 課題(Self-Assessment Question)を提出し、パスすれば次のモジュールへ進んでいきます。チューターがつき、提出した課題についてフィードバックがなされます。
リーディング資料はデータで提供され、(a) Overview (シラバス)、(b) Required Reading、(c) Conventions and Legislation、(d) Case Law、(e) Suggested Reading、(f) Self-Assessment Questionで構成されています。Suggested Readingまで含めるとかなりの量でした。
各モジュールのテーマは次のとおりです。
1. International Conventions and Private International Law/国際条約及び国際私法
2. Artists’ Rights (including copyright, moral rights and artist’s resale right)/アーティストの権利(著作権、著作者人格権、追及権)
3. Bailment and Art Loans/寄託、アートローン
4. Recovery of Stolen and Looted Art/盗まれたアート、略奪されたアートの取り戻し
5. Limitation of Actions/時効
6. Repatriation of Art and Artefacts; Codes and Ethics/アートの返還、倫理規程
7. Museums and Bequests/美術館と遺贈
8. Sites, Monuments, Treasure and Finds/サイト、モニュメント、 財宝、発見物
9. Auctions/オークション
10. Taxation/税務
(2)エッセイ
(i) あらかじめ用意されている課題リストが提供されますので、そこからテーマを選択してもよいですし、(ii) 自ら設定したテーマとすることもできます。チューターがうまい具合に整理して問題設定をしてくれました。私は、1つは提供されたリストから選択し、2つは自分で設定したテーマで課題を提出しました。
仕事が忙しくなるとなかなか進まず、特にエッセイはまとまった時間が必要なため、開始から修了まで約2年を費やしました。思ったより時間がかかってしまいましたが、IALから提供される資料はかなり充実していて英国のArt Lawを学ぶには大変有益なコースだったと思います。
今後英国、ヨーロッパのArt Lawについても情報発信していければと考えています。