よく投資としてのアートを語る文脈で、S&P500の利回りとアート作品の利回りを比較したデータが示されることがあります。
しかし、アート作品のデータはいわゆる「ブルーチップ」と言われるすでに評価の確立したアーティスト(アンディ・ウォーホルや草間彌生など)の作品価格に基づいているものがあり、アート作品の購入が投資として効率がよいかを検討するためには有用な比較にはならないと思います。確かに、大きく価値が上がるアーティストもいます。
例えば、2011年5月11日に行われたクリスティーズ・ニューヨークのPost-War and Contemporary Art Evening Saleでアンディ・ウォーホルの「Self-Portrait」が3844万2500ドルで落札されました。
アンディ・ウォーホル Self-Portrait 1963-1964 出典=クリスティーズ・ウェブサイト
この作品が最初に売られた価格は1600ドルで、コレクターのフローレンス・バロンが1963年にウォーホルにコミッションを依頼して制作されたそうです(*1)。
このような事例もありますが、それはごくごく一部です。投資を一次的な目的としてアートを購入することは個人的にはおすすめしません。投資や節税も購入動機のひとつであってもよいとは思いますが、一次的には自分が好きなアートを購入するのが一番ではないでしょうか。そうすれば、たとえ価値が下がっても購入を後悔はしないでしょう。
アートコレクターのなかにはポリシーとしてコレクションを売却しないという方もおられると思います。もっとも、アート作品の売却の際に関係する税制について知っておくことに損はないでしょう。そこで、今回は、アート作品を売却する際の税制の概要をご紹介します。
個人が保有する作品を売却する場合、1個又は1組のアート作品の売却金額が30万円以下のものは、「生活に通常必要な動産」ということになり、課税の対象になりません。
30万円を超える金額でアート作品を売却して売却益がでれば、譲渡所得として税金がかかります。税率は、事業所得や給与所得に合算して計算される「総合課税」になるので、所得が大きいほど税率は高くなります。
金額は、譲渡までの期間が購入してから5年以内(短期)か5年超(長期)かにより変わります。結論から言うと、購入から5年経過後のほうが控除金額は大きくなりますので、税制上は有利です。
購入から5年以内の計算式は次のとおりです。
譲渡所得=譲渡価額−(取得費+譲渡費用)−特別控除額(50万円)
例えば、40万円で購入したアート作品を購入から1年後にオークションを通じて200万円で売却し、手数料として20万円を支払ったケースでは、次の計算となります。
200万円−(40万円+20万円)−50万円=90万円(課税対象金額。この金額に税率を掛けて納税額が決まります。)
購入から5年経過後は、さらに控除金額が大きくなり、譲渡所得の2分の1が課税対象金額となります。
200万円−(40万円+20万円)−50万円=90万円
90万円×1/2=45万円(課税対象金額)
なお、取得費が明らかでない場合、譲渡価額の5%で計算しなければいけないため、取得費の明細は保管しておくように注意しましょう。